掛川寛人・7
越村にすれば石塚と同等に扱われるのは心外だが、穂高と聞いて画家も石塚と似たり寄ったりで、あそこは仙人か修験者が行くところだと思われた。それだけ妄想に凝り固まった者が、石塚以外にも居た。今のところこれだけが唯一、二人の共通点らしい。そんな修験行者が目の前に居れば、掛川が越村を見る目も変わり、驚くのは当然だ。しかもどうでもいい相手から一目置きだしたのだ。
三日前まで肌に心地よい穂高に居た越村にとって、都会は秋とは言えない夏だ。アパートに帰ってから遠のいた夏が、一気に戻ってうんざりしていた。そんな時に出会えて、じっくり出来た二日に亘る沙苗さんとのひとときは、実に爽やかだった。心に残るひとときは、早くも沙苗さんと一緒に消えて、そのままこの集落にほっぽり出され、今はおかしな画家とニヒルな石塚と散策する越村だった。
今までの越村は筋肉痛が残る学生だ。足腰の筋肉が快復途上の越村にすれば、この風景から今は何かを考える余裕はない。この集落は天界と下界の違いだけで観賞する気分に違いはない。ただ山では見掛けない特異な人間がやたらと多いのには驚いた。今は視覚から入った情報だけを身体全身で感じ取ろうとした。
もうひと晩すれば、穂高で鍛えた足腰が快復する。頭もそれに釣られて冴えてくる。そうなればこの風景も一段と脳裏に深い印象を与えてくれる。
旅館に着くと石塚には見覚えのある車が停まっていた。
「ウッ、あれは篠さんの車だろう。また切れた絵の具を頼んだのか?」
かなり走り込んで中古車販売でも置いていない、商用のライトバンが停まっていた。あれが画家の車か、いや、彼女の車か? まあ今はどっちでもいい。
「でも人影が見えない。じゃあ部屋で待ってるのか?」
越村は画家に訊ねた。そうだと頷くとそのまま旅館に入った。




