掛川寛人・6
周囲には茅葺き屋根を飽きずに見る人々が行き交っている。失われて過去の世界に埋没する行きずりの人々を、越村は茅葺きの民家以上に関心を寄せて見ている。
「この人たちの中にはリピーターは多いのか」
「いや毎回来る人は希だ。幾ら良くても偶に来るから、この非日常的な牧歌的風景が心に響いてくるんだ。明日からはまた過酷な人間関係の上下社会に揉まれる覚悟を切りかえてられる者と、そうでない一部の人だけがここに居座れる」
「オイオイ居座るとは人聞きが悪い。この風景に愛着が染みついて立ち去れないんだ」
懐の心配のない者だけが居残ってるのか。そんな奴らには何とでも解釈しろって言いたくなる。しかし此の絵描きは、それほど懐が潤ってるようには見えないが。何で喰ってるんだろう。とにかく掛川は訳の分からん男だと言って恐れることはない、その逆だ。
十も離れているのに、時々どこを見ているのか定まらない弱々しい目をする。あれは視覚が捉えた対象物から、何か絵になるものを探しているのか。同じ目線で対象物を観ても特に目を引く風景でもないだけに戸惑う。都会では胡散臭いそんな掛川の姿も此処では日常と掛け離れた世界の所為か、不思議と目立たなく溶け込んでいる。
「掛川さんは何を見てるんですか」
と一度は気になり声を掛けてみたが、冥く笑うだけで言葉を濁された。もうひとり気になる石塚は、まったく無関心なのだ。
「どうだ越村、此処の風景は」
突然に前触れもなく訊く石塚を見ると、彼奴も都会とは掛け離れてここに染まっている。
「そう言われても、穂高から突然投げ込まれたこの風景には戸惑ってる」
「そうだなあ。二ヶ月も何もない穂高に居ればここは別天地だろう」
「エッ! あなたはずっと穂高に居たんですか」
急に物珍しそうに掛川に見られた。バイトだと言うと更に掛川は驚いた。




