掛川寛人・3
モデルと彼女は別ものだと言われた。
「画家は対象のモデルに何の関心も抱かなければ静物画のように無心で淡々と絵筆を運べる。しかし頼んだモデルが自分の理想の人だったら、感情を抑えて冷静に描けずに、ひょっとして乱れた絵筆に依ってピカソのような抽象画になるかも知れない」
益々何処まで真面目に聞いていいか解らん男だ。
「人物画は不得意なんですか?」
「俺は風景画が好きなんだ」
いたって掛川は無表情だけにピンとこない。
「だから俺と一緒でここに長居してるんだ」
「石塚、お前は此処に憧れて来る人に興味があるんだろう。掛川さんや住職のように」
「俺もそうだ。あの和尚には説教をたれても意外と受け容れられるから不思議なもんだ」
絵描きも住職が気になるのか?
「深山さんとか云う住職ですか」
「何だ。今日着いてもう会ったのか」
「いや、石塚からさっき聞いた」
「どうだ。あのお坊さんは、ほとんど自分から説法をしなくて、普通に喋るから坊さんだと忘れてしまう」掛川が言う。
「そうらしいですね。お寺も一つの経営母体として、これからの運営を模索しているようですよ」
お寺だけじゃない。今の世の中は次から次へと新しいものが生まれて、古い物が淘汰されれば我々は何に耳を傾けていいのか思案のしどころだ。絵はかろうじて前世の面影を今も引き継いでいるのが彼には救いだ。画家と住職、この二人に共通するのは魂の叫びをどう昇華させるか。このいにしえの景色がそのために心にどう響くかだろう。




