掛川寛人・2
隣の石塚は見慣れているのか特に注意を払わない。生憎と石塚の家にはほとんどご無沙汰しても大学に行けば休みでない限り毎日顔を合わして、今日のような彼は余り知らなかった。昨日から沙苗さんと喫茶店に行き、ドライブして、これからは石塚を無下には出来なくなった。石塚と居れば沙苗さんとまた会える口実が出来るからだ。
「掛川さんは此処では風景画を描いているんですか?」
「それしかないだろう」
聴きもしないのに石塚が答える。この男のいったい何が気に入って石塚は滞在を延ばしているのか、じっくり観ても答えが出ない。矢張り描いた絵に何かヒントがあるのか。
「今日は絵は描いてないんですか」
見たところ手ぶらだ。まさかこの近くにイーゼルを立ててキャンバスを置いたままここに来ているのか。
「今日は石塚のお姉さんが来るって言うから、モデルになりそうか見極めようと思ったのに、連れて来たのは男だった。予定が外れただけだ」
「姉貴はそんなじっとしてない。なんせ向こっ気が強くてモデルの柄じゃないぜ」
「そうかなあ。此処までのドライブでは淑やかな人だったけど」
「それはお前に関心があるんだ」
良い悪いは分からんが、複雑な心境で石塚の話を聞き留めた。
「でもサッサと帰られましたよ」
「あたり前だ。昼から講義があるんだろう」
掛川に言ったが石塚に反発された。
「大学の授業はそんなに気にしてなかったけどなあ」
「そこが相手に悟られないようにする姉貴の気苦労なところなんだ」
「そんな女心なんか益々解らん」
「あたり前だ。俺もそうだが恋した事のない学生のお前に分かるか」
「二人ともそんな難しい女は相手にするな」
「あんたがモデルにしたいって言ったくせに」
とこれに二人は反発した。
「モデルは別だ。俺のペースで描けばいいんだ。別にモデルがこう描いてくれって言うわけないんだ」




