石塚と再会9
「そうだ無神経すぎる。要は愛情の問題だ。石塚にはそれが欠けてる」
越村にすれば日頃からいっぱしの女性論を打つ石塚にはその実践が伴わない。夏休み前も恋に生きたいとたわいもない事をしゃあしゃあと石塚は言って何処か噛み合わない。石塚がこの集落に踏み入れ時に、それを矯正する為にここに滞在していると、越村はここで察した。それほど此処は人生の奇智に富んだ人の集まりだった。
「それで掛川さんは独身ですか」
しつこいと石塚が止めるのを掛川は制した。
「付かず離れず付き合ってる女は居る。要は愛情の問題だが、彼女の愛情は芸術の成果に賭けている。それに俺は目いっぱい応える努力をしている」
画家の彼にとって作品は墓標であると云うのが彼の口癖だ。自分の心に思うことを絵にして残す。自分の生きた現世の証しを形にして遺したい。それが絵を描く一つの信念なんだ。生きて行く苦しさ切なさを絵にして遺してゆく。ただそれだけだ。
「だから女はその為だけに俺に尽くしている」
「そんな訳ないでしょう。掛川さんはもっとその女性と話し合ったことはないですか」
これには無いとキッパリ言い切られて話が続かない。
「オイ、越村、会ったばかりでそれはないだろう」
此の辺りの神経が芸術家には必要なんだと、掛川は意に介せずに美山特産のそばを美味そうに食べている。
「愛し合う。それは一般論だろう。女と云うものは、男もそうだが、愛の形は様々で恋した数だけ愛は生まれる」
と掛川は箸を止めて、片想いも相手が気付いてくれればそれも未成熟の恋だと言い切った。憎しみ、嫉妬。なかんずくは怨念さえも形を変えた愛だと何の躊躇いもなく云って仕舞うと、さも美味そうにまたそばを啜った。
「掛川さんはどんな絵を描いているんですか、一度作品を見たいのですが……」
これほど愛欲が渦巻く持論を展開する彼の作品を見たくなった。




