噛み合わぬ男4
越村洋樹は毎年夏休み前の七月中旬から九月の中旬まで、下界と隔離された北アルプス(飛騨山脈)の山小屋へバイトに行く。
テストが終われば北アルプスの山荘に行くつもりで教室を出た。仕事なんてどうせ遊び半分だろうと云う石塚の言葉が背中にこびり付くと、もう我慢がならない。一度も働いた事のない者に言われたくないと越村は引き返した。
「どうした。まだ時間があるなら珈琲でも飲むか」
親以外から一度も金銭を手にしたことのない石塚に、仕事の重要性が解ってない。単なる登山なら泊まるテントから食糧、炊飯道具一式の重装備を揃えるが、山荘に辿り着くだけの装備品は知れているし既に用意している。どうせバイトだ。この一言が頭に来た。前から徹底的に仕事人としての覚悟を教え込むチャンス到来と石塚の誘いに乗った。
前期テストが終わると各自の孤独な闘いは終わり、たがが緩んだ桶のように勝手な議論が染み出してくる。学食に付随する喫茶室ではそんな連中が屯している。そこで石塚はテスト前の議論とは話題を変えて、丸一日掛けて明日の夕方にまでに、三千メートルの山小屋に行く経路を訊かれた。これには些か調子が崩れた。まあ此の際、ええ加減な気分で仕事をするなと戒めるには丁度良い。
京都駅を夜の九時半の新快速で、米原から東海道線の快速で岐阜に、岐阜から高山本線で翌朝の七時半に高山に着く。高山からバスに乗り、一時間半で新穂高に九時過ぎに着き、そこからは徒歩で時間を掛けて穂槍山荘には夕方に着く。
「名古屋まで新幹線を使えば楽だろう」
名古屋まで新幹線の料金で在来線だと飛騨高山まで行ける。高山線は岐阜から出ている。新幹線だと米原から在来線に乗り岐阜で乗り換える。名古屋なら岐阜まで引き返す。どちらも途中で一泊すれば一日遅れで、昼間に山荘に着けるが、仕事で行くのならそんなのんびり出来ない。走る電車で一泊すれば翌日には山荘に着ける。




