石塚と再会5
此処は道路と鉄道に避けられたお陰で昔のまま残っている。
「どうしてこの集落は避けられたんだ」
「まあ見れば此処だけは開けた場所でこんな集落が出来たが、これを取り囲む山を見てみろ」
かなり遠くにある山並みは集落を囲むようにある。
「此処だけなら道路も鉄道も通せるが関西から日本海となると、トンネルや橋が多くなり当時は工事がそれだけ大変なんだ。これより奥は大学の演習林で、ほとんどが原始林に覆われて秘境中の秘境だ。人馬だけなら何とか通れる峠道はあるが、鉄道や車を通すとなると大変だと泊まり客の菅原さんから聞いた」
「そう言えば、日吉駅を過ぎると長いトンネルがあった」
「あの平成九年に出来たトンネルを抜けると美山町になるんだ」
「何だ十数年か、ちょっと前か」
「それまではヘアピンカーブが続く難所の過酷な道だったそうだ」
「やけに詳しいなあ」
「さっき云った菅原さんは、砂防ダムの工事責任者で、彼はこの丹波一帯で砂防ダムの工事と補修をやってるんだ」
「一人でか」
「一人で出来るか! 工事をするのは地元住民で、その人達に指図をするのが菅原さんで、あの旅館にずっと泊まってる」
此処の自然環境は菅原さんに教わった。他にも色んな人が居るが、石塚のようにひと月近く居るのは画家と僧侶だ。画家は解るか僧侶は解らん。
「僧侶と言っても一般の旅行者と同じジーパンにティシャツ姿で滞在して、訊かなければ僧侶とは解らん人だ」
彼は僧籍を離れて、心の葛藤を取り払うために来た。僧侶と聞いて越村はエッ! と驚いた。普通は心に邪念を持つ人に寄り添い正しい方へ導く人が、癒やしを求めてここに来るとは、聞いた時は信じられなかった。
「しっかりしたものの言い方で、しかも大きい声で喋るがダミ声でなく透き通るような明瞭な言い方には説得力があり強要もしない。こうした方がいいでしょうと無理に押し付けない低姿勢な喋り方に心が引きつけられるんだ」




