石塚と再会4
沙苗さんが帰ると越村はがっくりとしたようだ。
「泊まるのならバスの心配は要らないだろう」
どうやら石塚は勘違いしたようだ。
「朝一番に出て来てもう昼過ぎだろう」
と誤魔化した。
「そうか、何か喰うか。かやぶきの里に行けば、観光地で広い駐車所がありそこならまだバスもある」
「行きしなに見たが、車で十分はあったから歩けば結構あるだろう」
「なーに、二十分もあれば着く」
「そんなに歩くのか」
穂高を縦走するお前が、と笑われた。身体は健康体だが足はまだ病み上がりだ。此処には岩場もなく年寄りでものんびりと歩けるただの平地だ。そう言われれば行くしかない。
「まあ、そんながっかりするな。俺が此処に居座るのには訳がある」
「此処の風景が気に入ったからだろう」
「まあそれもあるが、それだけで一ヶ月も居られるわけないだろう。実際この狭い集落なら二日か長くて一週間もあれば堪能できる」
「じゃあ何だ。此処に住んでる人達と気が合うのか」
「それも有るが、それより俺と同じ目的でここへやって来る旅行者だ。彼らは俺と同じく心に蟠りがあり、それを払拭したくてここへ来ている」
「どんな泊まり客がいるんだ」
と浮かぬ顔で訊いた。
「それはこれからじっくり会わせてやる」
二人は旅館を出ると車一台しか通れない道路を歩いた。此処を訪れる観光客は百台は駐められるかやぶきの里の大駐車場に車を置いてやって来る。ここまで車で来るのは旅館の泊まり客に限定されていた。
「本当にあの旅館は満室なのか」
「いや空室もあるが予約が入っているんだ。越村も今日明日ならいいが、長く居るのなら断られる。それよりどうだ。この茅葺きの集落は、大半が江戸時代から在るんだ」




