石塚と再会3
「大袈裟だ。越村は俺と一緒で真面目に出席していて、ひと月休んでも単位には響かないだろう」
「その考えが間違ってる」
「ねえ、どうでもいいけれど。あたしそろそろ帰るから、越村さんも此処に逗留して話し合ってよ」
此の人に言われると断れなくなって仕舞った。
「部屋は空いてない」
「夏休みは終わったのよ。いつまで満室なの?」
「そうじゃあない、部屋数が少ないんだ」
「なら同室でいいんじゃない」
これには二人とも顔を見合わした。
「相部屋の方が旅館の人も喜ぶでしょう」
「此処は知る人ぞ知る関西に最も近い秘境に在る旅館なんだ」
京都と若狭を最短で抜ける途中にある美山は、人や荷物の行き交いで賑わった。だが高速道路も鉄道も此処を迂回して作られて、江戸時代の地方の風情を残したまま寂れて今や秘境扱いになった。最近それを目当てにやって来る旅人でこの旅館は盛り返している。閉ざされた冬場ならまだしも、この季節に一人部屋は旅館にとっては頭が痛い。
「まあ別に相部屋に異存はないが、越村が此処に残る理由は俺のことか」
「そう、裕司、あんたが今日、あたしと一緒に帰るのなら何も問題はないわよ」
「姉貴は解っちゃいねぇなあ、それが問題なんだ」
「もう、その話をすれば長くなるから、ゆっくりと真っ当に育っている越村さんと話してよ」
「俺は真っ当じゃあないと言のか」
「問題はそこじゃあないと思うけど。じゃあねー、越村さん、あとは宜しく」
と沙苗さんは行ってしまった。
石塚を連れて帰ると言った手前、越村は呆気に取られて、上手く押し付けられて仕舞った。どうすると言う間に車は旅館から出て行った。
「バスはあるのか」
「あるが一時間に一本だが、そのバスはもう出たからあとは夕方までない」
駅まで車で一時間、歩けば途方もない時間と穂高から帰ったばかりで、病み上がりの筋肉では体力が要る。このまま帰れば沙苗さんから睨まれてそれも恐ろしい。そこまで計算して彼女が優しく扱ったとすればゾッとする。




