石塚と再会1
石塚は自宅と大学の定期便にやりきれずにいた。越村が穂高に旅立って石塚には虚しさが付き纏い、行き場のない虚しさを抑えきれず、旅館から日帰りで周辺の村や町へ足を運んだ。広い海外の世界にはもっと静寂なところもあるが、言葉や習慣の違いは彼の孤高な生活環境から馴染めなかった。次男は親の目も届かず双方の気持ちも緩みがちだと早苗さんから途中の車中で聞かされた。これには越村自身も頷ける。今回の旅館に於ける長期引き籠もりとは言い難い滞在には同情を寄せた。ただ単位の取得限度ギリギリまでアルバイトをする越村には羨ましい。それだけに説得にはそれ相当に自分の感情を押し殺して対処するところが辛い。
姉が来るのは解っていたが越村は予定外なのか、石塚は彼の顔を見て驚いた。
「越村、お前、穂高から帰ったばかりじゃあないのか」
「そうだおととい帰った」
「中一日でここへ来たわけか。ご苦労なこった」
「そんな言い方はないでしょう。せっかく家族一同の期待に応えてくれたのに」
「どう言うこっちゃ」
と石塚は姉を見た。
「越村が来るのは解るが、姉さんがどうして来たんだ」
来ると解っていながら姉はどうも煙たいらしい。
「なに言ってるのよ。あんたが中々帰ってこないから様子を見に来たのよ」
「ほんとは逆じゃないのか、越村」
今まで放任主義の親が気に掛けるはずがない。とにかくそこの喫茶室で家の様子を聞こうと石塚は二人を誘った。
車でここまで来ればここの自然環境の良さは一目瞭然だ。越村が人間の生活環境に馴染まない三千メートルの山岳世界に陶酔するように、怠慢な足腰から来る不安を克服して都会生活を排除した最も近い場所を見付けた。家からここまで車で二時間も掛からない山間に、こんな飛騨の白川郷に匹敵する茅葺きの集落が存在して感動したのだ。




