山里の旅館1
翌日は大学より石塚がいると言われた、丹波の山奥の旅館に向かうことにした。しかも念の入れようが凄い。その夜には沙苗さんから、電車で行く越村をどうしても弟の居る旅館まで送ると言い出してきた。これは家族の総意に基づくものだと言われて、翌朝には彼女の運転する車に乗った。
旅館はJR日吉駅からそう遠くない山間にあると聞いていた。沙苗もそのつもりで車を走らせた。
「どうです昨日はよく眠れましたでしょう。二ヶ月に及ぶ山小屋生活ですものね」
一昨日帰ってきた時は、流石に今まで山で気構えて張り詰めたものが緩むと、足腰が崩れ落ちるようにその場に倒れ込むように寝入った。ゆっくり眠れたのは、沙苗さんが言うように昨晩からだ。
「ええ、今朝はスッキリしました」
「昨日はあなたが帰ったあと、お母さんにどうだったか聞かれて、ちょっとお疲れ気味と言うとじゃあ送ってあげなさいってなったのよ」
お母さんが石塚をかなり心配して、ほとんど甘やかした事はないと言うより、構ってやれなかっただけだ。放任主義とはいかぬまでもそれに近い。初めは石塚も戸惑ったが、その内に叱られぬ範囲で言葉や行動を楽しむようになった所為で、越村と主義主張が相容れないものがあっても、石塚が我が儘に振る舞うことはなかった。沙苗さんも今日の送り迎えを頼のんだ母親も、石塚祐司に対しては越村と同じ思いを持っているようだ。
「ちょっとほったらかし過ぎたんじゃないですか」
「そうかも知れないわね、兄の純一に構い過ぎて、大目に見ていた所為でしょう」
「エッ! 次男はどこでもそうなるのか」
「ひょっとして越村さんも次男ですか」
ウン、まあねと軽く受け流した。
車は南へ下がり五条通を走り国道九号線、沓掛インターから縦貫自動車道に入り、二十五分ほどで園部インターを下りて、府道を五、六キロ走ってJR日吉駅に着いた。ここからもバスは出ている。




