石塚の姉6
彼奴には十年付き合っても判らない者も居たのか。そいつに比べれば二年そこそこと言われても越村にはその違いがまだピンとこない。それはそうと、顔見知り程度の俺を、彼奴は沙苗さんにいったい何を吹聴したんだ。
「例えばどんなことを聞かされてるんです」
これでは逆になって仕舞ったわねと笑われた。でもそれで何かあなたがまた思い出して下さるのならと、
「そうね、入院していたおばあちゃんですが、そのおばあちゃんが亡くなる前、しきりに祐司に会いたがっていたの。余りにもつれなくするから、あたしが引っ張り出したのよ。おばあちゃんはそれから暫くして息を引き取ったの。あたしのお陰であれほどあんたを可愛がってくれたおばあちゃんの死に目に会えて感謝しなさいって言えば、なんと言ったと思います」
「そうは言っても彼奴の事だ『だから行かなかった』って言ったんでしょう。行けばおばあちゃんが今までの張り詰めていたものが一遍に吹き飛んで、入院ベッドが極楽浄土になってしまう。彼奴の事だからそう言ったんでしょう」
これには沙苗さんは飛び上がらんばかりに目を見開いて、不思議な顔でじっと見詰められた。
「なんで! 何でなのッ、どうして解ったの?」
「石塚は行動と思いが逆に出てしまうがそんな見方で、思いやれる男なんですよ」
一瞬、身を引いた沙苗さんが、急に身を乗り出してきた。
「何で、何でなの、あたし以上に弟の気持ちが分かるなんて。あなたってシリアスな人以上に変わった人ね」
越村の表情の変化を素早く読みとって、彼女は慌てて「いい意味で言ってるの。けして誤解しないで」と哀願するように言われれば悪い気はしない。それどころか一層心が揺れた。




