石塚の姉5
実にひと息入れるには計ったようなタイミングで珈琲が来た。越村は学食の珈琲の苦さが染みて砂糖を入れかけると「此処のは何も足さないでそのまま味わった方がいいわよ」と愛想良く言われて一口飲んでみた。此の見事な酸味と苦味が、絡めた舌に因って絶妙にブレンドされて喉を通ると、その爽快感が脳を刺激させた。
「こんな珈琲初めてだ」
越村の独り言を沙苗は「そうでしょう」と誇らしげに囁かれた。更にどんな風に弟に言ったか追及された。
「そう言われても彼奴、いえ、石塚は何を言っても動じない男ですから、思いの丈を打っ付けてしまいました」
「例えば」
「食わず嫌いが人生に於ける一番の不徳だ。先ずは話には乗ってみよ。好奇心が湧いたらなりふり構うな。思いたったら吉日とか、もう頭に浮かんだものを片っ端から石塚の頭の中に降り注いでやりました」
「何か卒業生を前に校長が錦の御旗の如く掲げる文言で、ありふれた言葉ばかりね」
別に教育課程は専攻していないが、言われればその通りだ。とにかく彼に対しては前向きに行動を起こすように促した。
「前向きな行動はいいんですが、あの子はなにを考えているか解らないところが偶にあるのよ」
「ぼくの場合は偶に処か、しょっちゅうですよ。家では普段、彼奴は、いえ、石塚は何を考えてるんですか」
二度目の彼奴と言う所で沙苗さんが微笑んだのには冷や汗を掻いた。しかし印象を悪くしてなくてホッとした。
「そうね、確かに弟に関してはあなたよりあたしの方が子供の頃から傍に居ました。その点、越村さんは二年ほどの付き合いですもの。でもね、高校まで一緒だったお友達が言うには、サッパリ解らん男だったと言うから。あのお友達は見る目がない人だと思った。耳にタコが出来るほど弟から聞かされた話では、その友人より、あなたの方が弟を良く知ってそう」




