石塚の姉4
立ち止まってふと見上げると、凝った作りの喫茶店だ。さぞ値の高い珈琲を覚悟して沙苗さんに続いて入った。テーブルも椅子もマホガニーの調度品だ。こういう店に何の躊躇いもなく入る沙苗さんには、矢張りそれなりの気品が備わっている。
店のテーブル席では、じっくりと彼女の顔を間近に眺められた。ここまでの道すがらは横顔ばかりだった。面長で鼻は高くないが筋は通っている。目は細面てだが、微笑むとほんのりとした三日月になるのが可愛い。髪もストレートでしなやかに風に靡き、ほどよい肩までの長さだ。店の人も若い女性で、何かスイス辺りの民族衣装をカジュアルにもじったものを着ていた。沙苗さんはメニューも見ないで「いつもの渋めで酸味の強い珈琲お願いします」それで通じるところが凄いと感心していると、
「越村さんは何にします」
と言われて内心は穏やかでないが、此処は男の沽券に関わると、無理に澄まして「じゃあ同じものを」と頼んだ。
「かしこ参りました」
ウェイトレスまで慇懃に答えて奥へ引き上げた。まあ三千メートルの北穂高と同じ値段の珈琲だと思えば踏ん切りが付く。ここまでの経過から石塚の自宅で垣間見た印象がかなり変わった。面識が薄いにも拘わらず、積極的に行動するのは、石塚は姉に対して越村の印象を良いように刷り込んでいるのか。それとも沙苗さん自身の性格なのか。今、言えるのは引っ込み思案でなく、前向きに物事を考えて対処する人だ。
「越村さん、あなたは穂高にバイトに行く時に弟に何か言いましたか?」
エッ! どうなってるの。聞きたいのはこっちなのに。
「そうですね。北アルプスの、特に槍ヶ岳の良さを吹聴してやったんですが、それが何か気に障りましたか?」




