石塚の姉3
「石塚はどうしてます? 家に居ないんですか?」
「そうなの」
「誰か来ているの? お客さんなら店に行ってもらい」と奥から母親の声がした。
「祐司のお友達の越村さんが見えてるの」
なら上がってもらいと言われたが、沙苗さんは白川通の喫茶店へ行くと家を出た。
通りまで歩くと彼女の横顔にやっと微笑みが見られた。
「大学には出て来てないようで、あっ、ぼくはずっと北アルプスの山小屋でバイトしてまして、それで今日初めて大学に来て知ったのですが……」
「それは知ってます。弟からあなたのお話は良く聞いてますから」
「ハア? それで何ですが、いつから?」
「越村さんってシャイな人なんですね」
「エッ! それはないでしょう。石塚がそう言ってたんですか」
この言葉に越村は俄然と奮い立たせた。
「だいたいあの男は身勝手すぎるんですよ。こっちの話にはいいとこ取りして耳の痛い話は聞かない、それで今まで友情なんて金輪際成り立ってない。それでも顔を合わすとお互いに励まし寄り添う。何か可怪しすぎて今まで、どうして付き合ってるのか見当も付かない男なんですよ」
これには沙苗さんは腹を抱えて笑われた。
「何か可笑しいですか?」
「御免なさい。だって弟もそっくりそのまま同じ事を言ってるんですよ。あなたの事を。矢っ張り切っても切れない縁なのね」
とまで言われた。我に返って思うと、その通りだと今更ながら呆れてしまった。その内に賑やかな白川通に出た。
「それで喫茶店は何処ですか」
「ああ、そうね、弟の話を聞きに来たのね」
「家では話せないほど、何か込み入ってるんですか?」
「そうね、今の我が家では一番の心配事なのよ」
愛くるしい顔で、現状を曝け出すように言われた。
「と言いますと……」
どうやらお目当ての喫茶店に着いたのか、此処にしましょうと言われた。




