穂高連峰11
「同じ大学でしょう。お友達の家って遠いの?」
「バスで三つか四つだから、歩いても二十分ぐらいですよ」
「無理な距離じゃないわね。そのシステムキッチンの会社、敷居が高いの?」
「澤村さん、あなた同じ山荘に居る小淵沢伸也くんを知ってるでしょう」
「ええ」
「彼もそんな友達が居ますよ。訊きましたか?」
入り口が賑やかすぎて足が遠のくのだ。
「そういえば男の人って、買い物やお喋りだけを楽しむ習慣がないのかしら?」
響子は奈弥に同意を求めてると、彼女も男の人は何考えているか判らない得体の知れない動物とまで言い切った。奈弥は如何にも明快に響子の質問に答えている。
「男は得体の知れない動物ですか」
「そこが可愛い」
と二人とも底が分かり切った男には興味がないようだ。騒ぎ立てる男の底は知れてるが、問題は寡黙な男の底をどうして突き止めるかだ。
「でもパンダの可愛さとは違うわよ」
あれば底抜けの可愛さだと言われた。
「そう謂えばパンダは、四川省の山奥で、人が立ち入れない秘境に棲んでるのよね」
眼下には所々に、はぐれ雲が低く棚引く北アルプスの山並みを奈弥は眺めていた。
「いつも見上げる雲が此処からは見下ろせる。これって凄い気分転換になるのよ。此の気分を味わうために、山麓から延々と続く過酷な体力と精神の限界を何度も克服してくるだけの価値を、寡黙な人ほど味わって欲しい景色だと思いませんか?」
「それは同感だが、小淵沢も口で何遍説明しても、百聞は一見にしかずと、昔の人は良く言い伝えたものだと感心してましたよ」
「いつまでも此の風景を眺めていたいけど、あたしの休憩時間も終わりそうなの」
と奈弥はこの場からお暇した。奈弥さんの後ろ姿を響子さんが未練がましく見ていた。
「一年ぶりに会った友達なのに、ぼくの余計な話題に引き込んでしまって、せっかくの大切な時間を潰してしまって申し訳ない」
越村は謝罪した。




