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穂高連峰10

石塚が話題に上がったのは、彼の並外れた世間との融和のなさだ。

「それでこの先どうするのかしら」

 奈弥《なみ》ちゃんの質問を受けた澤村さんは、視線を越村に向けた。

「彼奴《あいつ》にその心配がないから俺は苦労してるんですよ」

 一年ぶりに会って、どうして石塚のような他人事にこの二人は関心を惹くのか判らない。此の二人はメールの遣り取りをしょっちゅうして気心が解り、今更お互いのことを訊くより、此の非日常の景色に付随した、石塚のような面白い情報源に飛びついたのだろう。

 石塚祐司の親が経営するシステムキッチンを販売する株式会社ミカド商店は、白川丸太町の東天王町にある。社長は石塚長矩《いしづかながのり》で社員は五人、あとはパートだ。女性の事務員を除く後の四人は営業でほとんど店に居ない。社長に言わすと営業マンが店にとぐろを巻いていれば処置なしだ。営業の四人のうち一人は石塚純一《いしづかじゅんいち》で長男だ。石塚家は次男が祐司《ゆうじ》で長女が沙苗《さなえ》。 

 自宅は天王町の本社ビルから歩いて十分も掛からない所にある。社長宅としては広くないこぢんまりした家だ。

 三千メートルの景観を映像で石塚が頭で理解しても、そんな修験者のような者が到達する過程には、全く興味がない処か軽蔑さえしていた。

「じゃあ長男が跡取り息子なら、彼は万が一のスペアーか」

 いとも簡単に澤村は言って退けた。

「いいご身分じゃあないの」

 奈弥が鼻であしらうように捻《ひね》くれて言った。

「その~、彼の家には行ったことがあるの?」

「一回だけ行った」

 エッ! これには二人とも呆れて、今更ながらそんな男との付かず離れずの関係に、なんとか理解を示そうとした。


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