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武奈ヶ岳登頂2

 越村にしても今まで恋した経験はある。教育学部の女学生が実習生として高校に来て仲良くなった。これが担任の先生に知るところとなり「うちの生徒をたぶらかさないように」で、この恋は泡のように消えた。石塚はそこまで行かず、ただ見守るだけの恋をした。おそらく向こうも知っていながら、素知らぬ顔をされた一方的な恋だと沙苗さんから聞かされた。恋に挫折した人ほど、次に訪れた恋を真剣に受け止めた結果、四人は武奈ヶ岳山頂に辿り着けた。

「澤村さんは、弟がここまで登って来られると確信しました?」

「それは、越村さんの特訓のお陰でしよう。でも特訓を受けてないお姉さんは、弟さんと同じ足取りでここまで登ってこられて凄いわね」

「澤村さんだって陸上選手じゃないんだから、毎日弟みたいな練習はしてないでしょう」

 暫く運動してない澤村さんも沙苗さんと同じで、お膳立てしてくれた越村に二人は感謝していた。思えば二組とも似たような思いを経て、求め合うものが育んだ恋だ。今振り返れば、石塚は越村が毎年夏に行く槍ヶ岳の山荘のバイトに嫉妬していたかも知れない。そうでなければ何《なん》の基礎練習もない者が、短期間にあんな特訓に耐える訳がない。ちょっとした切っ掛けがあれば良かったんだ。それが澤村さんだからこそ耐えられた。

「毎日って言ったって、ひと月ちよっとですよ。それも澤村さんが嗾《けしか》けたとは言いませんが、当人には切羽詰まった訳ありみたいでしたよ」

「おい、俺がいつ彼女をあてにしたと言ってるんだッ」

 頬張ったお握りを飲み干すように、ペットボトルのお茶で流し込んで、石塚は聞き捨てならないと叫んだ。がその目は何処《どこ》かはにかんで不釣り合いだった。


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