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武奈ヶ岳山頂へ3

 三千メートルの岩の斜面では一本のザイルで繋ぎ合って、磊落な精神が心のザイルを強固にしている。此処では頂上を前にして寛いだ心境になっている。

「そうなの、いつもどんな風なの。あの気まずいダルマが最近、特にしまりのない顔をするのよ」

「あらそう、締まりのない顔って、おそらく石塚さんとあたしではニュアンスが違っているんでしょうね。だって石塚さんにすれば冴えない顔でも、あたしには印象が違って見えるのは、祐司さんへの想い入れが違うのでしょう」

 ダイヤモンドは欲と見栄が絡むと輝きが違うように、瞳の輝きも受け止め方で違ってくる。純粋な気持ちと無垢な思い遣りが絡むと、見る人に依っては、輝きは海の底や山に眠る鉱物でなく、人の心の中に眠っている。そんな英知も本人が実践すれば自ずと身に付き人生も拓ける。

 山頂の直ぐ手前から琵琶湖が見えた。

「石塚さんは今、分水嶺の頂点を歩いているのよ」

 そう言えばさっきまでのなだらかなら尾根とは違い、左右は勾配のある狭い道を沙苗さんと澤村さんは歩き出していた。右側に降る雨は琵琶湖に流れる。もう山頂は目の前だ。この最後の坂を登りきれば素晴らしい景色が待ってる。

「この坂が最期のアタックかッ」

 石塚の声に先頭をいく越村が後ろを振り返り、そんな大層なもんじゃないと云いたい。それでも石塚にすれば千メートル以上の山は人生初登頂だ。その感激をオーバーに表現したい気持ちが、今の言葉で胸に熱く伝わった。雄大な景色を背後に頂いて、最期の坂を登り切った先は、そこだけ荒涼とした地面に転がる石だけの数メートルの世界に、武奈ヶ岳山頂千二百十四メートルを示す標識があった。越村に続いて石塚が山頂に立った。十数歩遅れて沙苗さんと澤村さんが頂上に着いた。今まで山の谷間にチラチラと見えた琵琶湖が稜線の向こうに広がって見えた。

 武奈ヶ岳山頂は最高峰だけに三百六十度遮るものがない。東に琵琶湖が一望でき、その向こうに伊吹山が霞んで見えた。南は山並みが連なり、西に転ずるにしたがって京都の北山も一望して、手前の高嶋トレイルの山並みが対照的で面白い。


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