武奈ヶ岳山頂へ2
篠さんの支えがある限り、掛川に挫折はない。同じように澤村さん有っての自分なんだと悟れ!
「でもなあ、あの画家は画風を変えた。つまり俺の主張が受け容れられたんだ」
あの旅館に泊まって最初に意気投合した翌日、作画場所で完成間近の絵を見た。素朴で何も飾らないところに心が訴えられる。俺が求める無垢の桃源郷だ。と云ってその晩は湧き出た理念を延々と酒に任した語った。
「それだけか」
調子抜けした。特訓がうぬぼれを拡張させてはいない、単なる自信過剰なら更生の余地は十分ある。
「どうかな、掛川さんは単に今まで以上の感動を絵に求めたに過ぎない。要するにお前の理論を受け容れたのでなく、眠っていた感性がお前のひと言で目を覚ました。それはとりもなおさずあの画家が新しい画風を纏め上げようとして彷徨った結果、絵描きが本来持っていた思想を風景に描き込む術に目覚めただけだ」
これをもっと突き詰めれば大成する。道のりはまだ遠いが切っ掛けを掴んだ掛川の方が一枚上手だった。
沙苗さんと澤村さんは二人から数メートル後ろを歩いている。
登山口の急峻な坂よりましだけど、この最後の急な坂を登りきれば頂上。弟に持久力が付いたのは、取りもなおさず洋樹さんの一ヶ月の特訓の賜だと感謝している。
「弟は難しい顔をしているけど心中では、はしゃぎまわってるわよ」
「そうね、祐司さんとお付き合いして、今までお目に掛かれない顔付きに噴き出しそう」




