武奈ヶ岳山頂へ1
標高千九十七メートルの御殿山から標高差が五十メートル下り、わさび峠からまた少し登り最後は急な登り坂になる。此のピークを登りきると開けた高原のようななだらかな尾根に出る。此処からやっと前方に武奈ヶ岳が見え、山頂を目指す緩やかな稜線が、此のルートでは最高のおすすポイントだと二人に勧めた。
石塚姉弟にすれば、三千メートル級の山に囲まれ広々とした信州の高原に比べ、はるかに規模は小さいが、目指すは比良山系の最高峰である千二百十四メートルの武奈ヶ岳だ。穂高を縦走する越村にすれば物足りない。それでも箕面か吉田山しか登ったことがない石塚にすれば千メートル以上の山は別世界だ。
「どうだ石塚、此処からだと鼻歌を歌いながらでも登れるだろう」
「いつ俺が鼻唄を歌った。ひと言余計だ」
と目を剥いて来る。
吉田山で上り下り往復五回の日課を半月こなした。あの荒い息づかいからすれば、今は余裕を澤村さんに見せられる。と暗に仄めかしている親心が、判らんのかと云いたい。
「それもそうだ。澤村さんを知るまでのお前には、そんなゆとりなんてこれぽっちも感じられなかったもんなあ」
「当たり前だ。俺がそんなオーラーを出してないだけだ」
負け惜しみを言えるのは、吉田山の特訓が相当効いている。
「お前に、そんなものが有るわけないだろう、澤村さんを見るまでは、掛川さんがお前の屁理屈を良く聞いてくれたと、俺は不思議に思ってる」
「偉大なおれの理念を、屁理屈とはなんだッ」
「世間が認めない限り、幾ら偉大だと叫んでも自己満足にしか見えない。要は自助努力が足りなすぎるんだ」
「なら、如何すればいいんだ」
「恐れながら、ともっと謙虚に世間に訴えろ」




