武奈ヶ岳登山口2
四人は登山道入り口にある明王院社殿を見ながら境内を通り抜け、本格的な登山道に入った。余裕のあった広い境内から狭い一本道になり、先頭を越村、石塚弟、姉、最後部を澤村さんに任して、一列になって登山道を登りだした。
此処は一番短いコースで、登山口からいきなり急な登り坂になり、越村は石塚の状態を確認した。早くも厳しい顔付きで付いてくるが、吉田山の鍛錬が効いて足腰の心配はない。それより後ろの沙苗さんとの距離が開きだし、そっちが心配だ。後ろの澤村さんが、大丈夫よと云う顔で上手くホローして歩いている。
此処はペースを上げずに登る。石塚にすればウォーミングアップなしで、いきなり今まで体験したことのない細い急斜面に躊躇した。後ろから沙苗さんもホローされながらも登り始めれば、彼も立つ瀬がない。特訓を受けない姉に負ければ、澤村さんに何を言われるか不安で、急斜面に最初の一歩を踏み出した。頑張ってー、と微笑んで下から応援する澤村さんに任して先を歩いた。
細い沢筋のような道を抜けて、針葉樹林帯を這うように曲がりくねった道を歩き出した。周囲はブナが生い茂る広葉樹になり、倒木の或る比較的足下が安定した場所を見付けて休憩した。未経験の姉弟の為に四人は倒木に背中を凭れて一服した。実際に石塚の呼吸は少し乱れていたが、ビスケットとお茶を出した。珍しく石塚は頬張った。女性二人はゆっくりと食べ出した。
「こんな早く休憩して大丈夫なの」
「まだまだ先だけど、此の先はあんな急な登り坂はないから、今のペースで登れば大丈夫よ」
澤村さんが早苗さんの不安を払拭している。登山に焦りは禁物だ。澤村さんは心得たもので、遅れた沙苗さんを上手くリラックスさせている。沙苗さんは気に入らなければ言ってくれるが、口数の少ない理論派の石塚の調子を見るにはこつがいる。
「どうだ、石塚、良くあの入り口直ぐの急な登り坂を、付いてこれて感心している」




