武奈ヶ岳登山口1
駐車場で服装と荷物を整えて、途中のコンビニで買ったおにぎりとペットボトルのお茶を入れた。天気が悪くなった時のパーカーも、背負ったリュックサックに詰めた。靴を履き替えて登山口目指して歩き出し、一カ所だけあるトイレで用を済ました。いよいよ登山口かと初めての石塚は緊張している。最初に見えたのは、赤い橋と向こうに見える神社の鳥居だ。越村と澤村は平常心だが、これには石塚と沙苗さんは「何、! これ!」と吃驚している。橋の手前に届けを出す箱に登山届を出し、清流が流れる狭い川に掛かる赤い橋を渡った。長い緩やかな石段を上がる。初めての石塚姉弟はまだ戸惑っている。
「何なのこれ!」
緩やかな石段を上がりそこで観た沙苗さんが、奇声を上げた。
「ねぇ、洋樹さん、これ本当に登山口なの」
とまだ納得出来ない。
オッ、今日はずっと名前で呼んでもらえそうだと、ほくそ笑んだ。
石段の先に立派な山門と社殿の在る境内を通る。沙苗さんはもう驚かずに眺める余裕もある。石塚は云う言葉も見つからないのか黙々と歩き続ける。
「どう、此の組み合わせは」
澤村さんの優しい言葉に石塚はやっと頬を緩めた。
「何で、こんな山の入り口に神社があるの?」
まだ沙苗さんは不思議そうだ。
「さあ、謂れは解らないけど、山へ入る人の安全祈願かしら?」
「登山口ってみなこんなの?」
「登山口にこんな神社が在るのはあたしの知る限り、ここしかなかったわよ」
霊験あらたかな山の麓には神社が鎮座するがそこを登山道が直接通ってない。昔はとにかく、山は修験者の鍛錬の場所で、それだけ尊い存在でもある。越村の説明に、これから本格的な登山をする石塚は、気持ちを一新させた。
澤村さんが越村の耳元で「今からそんな修験者の話をすれば萎縮するから、御法度にして」と頼まれた。




