武奈ヶ岳9
「祐司、そうなのッ」
「俺はいいけど、姉貴こそ車ばかりでどうなんだ」
「馬鹿にして! 何よッ。石の上に何年も座ってるやつが」
「俺はダルマか!」
「そんなええもんじゃないでしょうッ」
「祐司さんが声を荒らげるのを初めて見た。出せば出るのね」
越村にすれば珍しくはないが、澤村さんには笑われた。
「何だ、家では沙苗さんといつもそんな調子なのか」
「洋樹さん、あたしの方から弟には嗾けてません」
澄んだ声で、沙苗さんに初めてファストネームで呼ばれて唖然とした。澤村さんの影響もあって、四人も揃うとそれぞれの立場がややこしくなると納得した。
「あたしが隣でお姉さんとお喋りするのはいいけれど、後ろと前でやり合うのは着いてからにしましょ。そうでなくても見通しの悪い山道なんだから」
澤村さんは姉弟を一緒に見るのは初めてで、二人の遣り取りに慣れてないようだ。
「お気づかいありがたいけど大丈夫です。それにもう直ぐですから」
おおむね一車線の道路だが、所々中央線のない細い道を走ると、バスは大変だと思う山間部もあった。まさか此処をバスが通るとは沙苗さんは思ってない。出町柳駅から坊村行きのバスは土日の朝一便だけある。エッ! あるのと驚いていた。
「車のない人はそれを利用するの」
越村も澤村も、武奈ヶ岳登山には朝の一便を利用する。
「平日はないの」
沙苗さんに聞かれた。都会からここに来るのは蓬莱山と武奈ヶ岳の登山が目当てで、それ以外は誰も平日は来ない。
「そうなの、それも朝の一便だけで、運良く車で山に来た人に便乗出来なければ、向こう側の琵琶湖に下りて湖西線で帰るの」
澤村さんの説明に、後ろの二人は「便乗、女の子はいいよなあ。男は無理だ」とぼやいていた。此の先、沙苗さんが此の山を気に入れば別だが。もっとも車がまだ有ればの話だ。
車は登山口の坊村バス停近くの駐車場に着いた




