武奈ヶ岳7
澤村さんのひと言が効いたのか、後部座席では石塚と越村がたわいもないお喋りに従事している。
高速道が無料化された百六十一号線を走り、真野インターから一般道に入った。此処から琵琶湖を離れ山間部に入る。更に渓谷沿いの三百六十七号線、通称鯖街道は当然ながら頻繁にギヤ操作を繰り返し走り出した。
「オートマじゃないの。大変ね」
彼女は免許を持ってない。当然車の運転どころか操作も良く知らない。せいぜいガソリンを入れたら車はハンドル操作と足下のアクセルとブレーキ操作で走れる。それぐらいの知識しか持ち合わせていない者に、沙苗さんのめまぐるしいギヤ操作に目を見張る。
「これが車本来の姿で、車も走りがいが有るんじゃないの」
「車を擬人化して乗りこなしてるんですか」
「そうすれば車との一体感が生まれて益々走っているのが面白くなる」
「面白いと云うだけでカーレーサーでもないのに、どうしてそんなに拘るの」
「カーレーサーは時間と距離に拘り続けて走る。それよりこうしてただ眼前の急なカーブをどう走り抜けるか、その一点に絞ってるから楽しいのよ。山もそうじゃないかしら」
沙苗さんは澤村さんと話しながら、チラッとルームミラーに映る越村を見た。耳に入ったのか頷いた。これで自信を付けて、沙苗さんは登山そのもの話に移した。先ず訊きたいのは、高三で独り槍ヶ岳によくもまあ高収入なバイトなのか知らないが、行った心境に迫りたかった。山の話は以前に行った植物園で越村から聞かされた内容だった。長男が田畑を継いで次男のお父さんは大阪に出て、我武者羅に働く背中を見ながら澤村は実家にもよく遊びに行った。
「お父さんは確かヒマラヤの遠征隊に加わったって聞いたけど」
「登頂メンバーでなく、最終キャンプ地で待機する支援隊なのよ」
こうと決めたら引き返さない、強い意志の持ち主が禍して外された。その経験から彼女には、冷静な判断力を養うために、単独登頂を勧められて、冬の武奈ヶ岳には毎年登っていた。




