武奈ヶ岳6
「石塚さんはミッション系の大学に行ってるんですね」
車が駐車場を抜けて一般道路を走りだすと澤村さんが聞いてきた。
「弟が云ったのね」
「俺はそんなつもりじゃない」
と石塚が言いかけて越村が止めて、今度の武奈ヶ岳登山の話に切り替えさせた。
「お姉さんとゆっくり話をさせて」
と澤村さんが振り返ると石塚は越村と喋り出した。
「これから行く武奈ヶ岳は良く行くんですか?」
沙苗さんが訊ねた。
「雪深い比良山系にあって、武奈ヶ岳は岩場や急斜面は少ないが、纏まった積雪があって冬山には丁度良い鍛錬になるの。最初に登ったのは中学生の時、夏休みに友達と二人で登った。高校生になると一人で冬に登った」
澤村さんは淡々と話した。
「エッ! 高校生で一人で」
「驚くことはない。この人は高三で槍ヶ岳山荘のバイトに来たんだから」
越村が後ろからフォローした。
車は昔の百六十一号線に変わる高速道として開通し、今は無料化して新しくできた道を沙苗さんは快適に走りだした。
「あっ、そうか、そこで越村さんと知り合ったんだ」
と沙苗さんは納得した。
越村自身も前年に高三で槍ヶ岳に一人で来たのには驚いた。
「一人で、しかも高校生で危険なことはないんですか?」
「縦走は無理でも麓から沢伝いに行けます、でも流石に高三の時は松本から上高地経由で槍ヶ岳手前のヒュッテ大槍まで行くと迎えに来てくれました」
大学生になって旅費の関係で松本市でなく飛騨の高山から行った。関西からだとそちらが近道になる。
「それにしてもそんなバイトを続けるなんて大変ね」
「越村さんもそうだけど、気の持ちようで生活すれば大概は克服できるわよ」
やるかやらないかの壁は、すべて自分自身の意欲に掛かって来る、と澤村さんは云っている。




