武奈ヶ岳5
「張り切ってますね。余り張り切ると石塚も彼女をどうしていいか戸惑いますよ」
「アラ、そうかしらバックアップしてあげるだけよ」
「それが彼奴には重荷になる」
そもそも澤村さんはそんな埒もないことを期待する人じゃあない。二人は駐車場から八条口の改札口に向かった。
駅構内に沿って続く歩道の二人が越村と姉を見つけて突然声を上げた。向こうも手を振っている。早朝とは云え、日曜の朝は送る人迎える人で賑わう。四人は同時に相手を見付けると、人波を掻き分け直ぐに距離を埋めた。真っ先に石塚が姉に澤村さんを紹介した。
「今日は一緒に登れると聞いて、祐司さんと手を取り合って喜んだの」
今朝出掛けに見た弟が、スッカリ照れ笑いを浮かべていた。なるほどこの人ならと沙苗さんも、澤村さんに親しみを感じた。
さあ行きましょうと越村は、澤村の荷物を取り上げて先導した。慌てる石塚を見て、沙苗さんは気の利かない弟を詫びている。
「いいんです。あたしはそんなことは気にしていませんから」
言葉に何処か気立ての良さを漂わせている。
「同じ山荘のバイトで知り合いになられたとか」
その辺りは石塚や越村から情報は行き渡って、挨拶代わりに掛けた言葉だ。澤村さんも心得たもので、復唱するように話を繋げて、お互いの立場を理解する頃に車に着いた。
先ず沙苗さんが助手席のドアを開けて澤村さんを勧めた。これには石塚と顔を見合わせて戸惑った。越村が石塚を、強引に後部座席に引きずり込むと、澤村さんも諦めて助手席に乗った。沙苗さんは運転席に乗り込むと直ぐに車を出した。
石塚と澤村には二人の間に共通の話題としてある、姉の沙苗さんの話で持ち切りだった。そのほとんどが口喧しい姉の存在を石塚は憂いている。実際どうなのか。澤村さんにすれば、この日の初対面で石塚から聞いた沙苗さんの情報を修正した。逆に口喧しいのはそれだけ弟を思っている証しだと受け取った。




