武奈ヶ岳4
澤村さんとは初対面で気になる沙苗さんに、運転に専念してもらうには、八条口の駐車場で越村が澤村さんと一緒に後部座席に乗れば良いだろう。ただ彼女でなくいきなり弟と席が隣同士なのも変に思われないか気を揉んでいる。沙苗さん自身と言うより、澤村さんへの気遣いだ。二人きりなら別だが、何処へ行くにもベッタリの二人を、離してみるのも良い刺激になる。焦らせ焦らせと言ったが、こんな些細な距離でも成果は確かめられる。ゲーム感覚で物事を対処する並の人間には問題ないが、大地に根の生えた石塚をここまでリードした澤村さんの手腕に彼奴が付いてこられるかだ。
「ありがとう、そこまで気を使って、でも澤村さんが隣でもいいわよ」
八条口に行く走行中のハンドルを持って前を向いたまま言われた。これで澤村さんは助手席に決まりだ。弟より気掛かりな澤村さんと、早く慣れ親しんでもらう越村の気遣いに、横顔を見れば目頭に熱いものを感じて「どうした!」とわざと沙苗さんに声高に言った。どうもないと怒鳴り返されたが瞳は澄んでた。
「お父さん、気に入っていたわよ」
せっかく呼んで来てくれたのに、急にお客さんが込み入って申し訳ないって頼まれたそうだ。
「あれは石塚に頼まれたのに、何で君が謝るの」
「登山ってそう言うチームワークが必要なんでしょう。弟が聞いた話だと、槍ヶ岳の山荘では以心伝心で手空きの者がそうやってホローするんだって、澤村さんともそうなの?」
そんなこと言ってたっけ、と惚けてみても、石塚から筒抜けのようで。案外、彼奴の云うのも的外れじゃない。
「じゃあ澤村さんに会ったら直に聞けるわね」
「そういう微妙なところは、彼女も何処まで石塚から聞いてるか、彼奴の性格を考えると問題ありだ」
「どっちもだけど」
と云う間に八条口の駐車場に着いた。さあ迎えに行くかと、沙苗さんは澤村の人柄に期待して、早くお目に掛かりたいようだ。取りも直さず紹介したこちらの胸にも、ズキンと響いてくる。




