武奈ヶ岳2
「あなたのアドバイスが効いて、弟は一時間前に澤村さんを迎えに出掛けたわよ」
車に乗り込むなり、待ちきれない弟に代わってお礼を言われた。越村は上下ジーンにナップサックだけの軽装に、弟は薄手のセーターまでトランクに積んでいた。
「日帰りの登山にそんなに凝った荷物は必要ないと言ったのに」
日曜なのに石塚は、早朝から張り切って靴から背負うバックまで念入りに用意した。後から合流する姉貴の車に荷物を積み込むと石塚は手ぶらで出掛けた。
「天気だけが心配だったけど晴れてよかったわね」
フロントガラス越しに見る青空には、吸い込まれるように薄い筋雲が秋の深まりを告げている。十月最後の日曜だが陽射しはまだ強かった。此の季節は朝晩は涼しいが陽射しはまだ強く、登山の服装には気を遣う。千メートルの比良山系は、晴れれば暑いが薄曇りなら肌寒くなる。朝の涼しいうちの用意した服だから車には結構荷物が増えていた。
「こんなに天気が良いのに、厚手の服なんて要らなかったわね」
「でも山を甘く見るとしっぺ返しはきついよ」
昼間は三十度近くまであっても、最低気温は二十度を下回っていた。山頂は陽が陰ると十度近くまで気温が下がる日もある。
「じゃうもう色づいてるの? 湖東三山はまだなのに」
「ほとんどがブナの広葉樹で、山頂一帯はそうだろう」
弟は気候には眼中になく、車で登山口まで行くと聞いて色々と用意した。澤村さんと本格的に千メートル以上の山に登れるとあって浮き浮きなんだ。沙苗さんも初めて澤村さんとご一緒する。人柄は聴かされてるが、弟がぶっきら棒なだけに多少の不安はある。
「そんな心配はいらないのに、余程気になるんだなあ」
「あなたの方は、弟が実際にあなたを父に合わせて納得させても、話だけであたしや家族はまだ付き合ってる相手がどんな人か何も知らないのよ」
「石塚は何も話してないのか」
「その逆、まあ、有りもしないことを次から次と喋るから、どれを真面に聞いていいのか解らなくなってるのよ」




