石塚の改心5
「ところで最近はどうだ」
どっちが声を掛けても可笑しくないが、気後れした方が先に言い出した
「品があっておっとりしているところはお互い様だろう」
それに越村は反発した。
「沙苗さんには品はあっても、澤村さんみたいにほどよい安らぎには縁がないようで、実現するかは別にして、ヒマラヤ登山という高い目標を掲げているところが羨ましい」
それで手を焼いている石塚は、高い目標は淡々と語るだけで、それに向かう覇気は乏しい。まあ石塚を見ればそれも致し方ない。彼女とは槍ヶ岳での付き合いなのに、ヒマラヤの話は石塚から初めて知った。なまじ中途半端なものより、尻込みするほどの強烈なパンチを彼女は石塚に喰らわしたのだ。
「それでも姉貴にぞっこんなんだろう」
まあな。そこが澤村さんと違って闘争意欲を駆り立てる。石塚はそんな沙苗さんの影響をもろに受けて、自我を閉ざしたと越村は見ていた。
「逆にお前は、沙苗さんへの反発精神から澤村さんにぞっこんなんだろう」
此の激しい世間の常識に背を向ける石塚には、彼女のおっとりとした精神はピッタリだ。なまじああだこうだと言われるより、逆に刺激されて吉田山に強化合宿を申し込んだ。それを指摘すると満更でもない顔をした。
「ところで最近は変わったか」
にやけ顔に、お返しをしてやった。
「この前は箕面の山に行った」
「どうだった」
「あの原生林を一緒に歩いた人とは思えないほど見違えたと言われた」
俺に感謝しろよと言わなくても、石塚はスッカリお前にお返しはしていると得意げだ。
「此の強化合宿は澤村響子でも俺でもなく、お前の努力だと姉に宣伝して、姉貴の様変わりに思い当たるものがあるだろう」




