石塚の改心3
「オイ、今日から始めるつもりか」
「そのトレーナー、姉貴がお前のために選んでくれたんだ。似合うだろう」
そう言われると悪い気はしない。二人は直ぐに大学裏にある吉田山に向かった。
「どうした。今度は澤村さんと山でも登るのか」
彼女もバイトに忙しくて、時間が取れない。バイトが忙しいのは越村も同じで、最近は車の運転講習も受けていた。車の免許費用は今日の面談で石塚の父か出してくれるようになった。受かれば商品配達や顧客の送迎にバイトで来てもらう予定だ。今日、親に引き合わせたのもそんな都合だと言われた。
大学の裏にある吉田山は低いが、ここ暫く途絶えていた山登りのウォーキングに前から石塚を誘っていた。今日はその彼からの自主的な申し込みだ。これは天地が引っくり返る出来事だ。
「どうした?」
「どうもしない。占いで今日に決めた」
嘘をつけ! もっと真面な嘘をつけないのか。澤村さんに突かれたのだろう。
天変地異がどう揺れ動こうと我関せず、と動くのが面倒くさい男の代表格を貫いた威信は、夏の夜の或る出来事で潰えた。
吉田山は百メートルの低い山だけど山頂まで伸びる階段がありかなりの体力を使う。真っ直ぐではないが一回の上り下りでは散歩にもならない。これを連続して一日何回と続けなければ実行した意味はない。まして三日坊主なんて所詮は気休めでやらない方が却って足腰にいいだろう。続けなければ筋肉は丈夫にならない処か脆く潰えてしまう。二十代にしてもう老齢の骨髄では話にならない。気乗りしない石塚の頭の中に嫌と言うほど貶した。それで一発奮起するはずのない石塚から申し出を受けた。まったく親まで巻き込んで大層なやつだが、初日から五回の上がり下がりに堪えた。
「流石に、愛は偉大だなあ」
何とでも言えとこの日は終わった。
既にひと月近くで神無月も終わりに差し掛かった。最初の三日が勝負所だった。かなり息を切らして五回の勤行を繰り返し、一週間目で呼吸は苦しいながらも続いた。半月以上でやっと呼吸が安定した。基礎体力が付いて来た。もう脱落する心配も遠のいた。




