石塚の改心1
澤村さんと逢瀬を重ね始めると、石塚が積極的に話してくる。主に話の内容は越村に関することが多くなった。整理すると越村と澤村さんでは、穂高を目指す心意気が違うと石塚に言われた。
「どう違うんだ。山に挑む姿勢はみんな同じだ」
そんな取って付けた言葉に、石塚は動じないほど、彼女からみっちりと精神に磨きを掛けられた。いつも構内の学食か近くの喫茶店で話し込むのが「今日は俺の店で話そうと」その日は珍しく石塚の会社、システムキッチンの店に誘われた。
午後の授業も終わり大学を出た。そのまま二キロ先にある石塚の店まで歩いた。
店は白川通と丸太町通の交差点付近の天王町にある。大学の正門を出て近衛通から吉田東通、神楽坂から込み入った住宅街を歩いた。こんなややこしい道を通るときは頭の中も込み入っている時だ。
「越村、俺の店に行ったことはあったっけ?」
「いや、ない」
店どころか実家さえ最近、行くようになったばかりだ。石塚を逗留先から連れ戻すと急に石塚家から好意の目で見られ、その典型が沙苗さんだ。
「親父に連れて来るように言われたんだ」
ホウ、石塚は毛嫌いはしないまでも関心を持たない父親には耳を傾けるのか。まあすね齧りの身では余り逆らえない。
「それだけ石塚への思い入れが強いんだ」
「それはない。おそらくお袋が手を廻しているんだ」
母親の話に父親が乗ったと石塚は見ている。
「そうじゃないだろう、沙苗さんの意向が強く働いているんだろう」
これには沈黙した。だが気まずい沈黙ではない。にやけたその顔で解った。
「俺の家族は安定しているだろう」
ウッ、急に何を言い出すのだ。その先が気になり足取りが鈍った。
「越村よ。俺はお前の家族をサッパリ知らない。若狭から一人でやって来た以外はなあ」
しみじみと石塚の顔を眺め回しても、彼奴は平穏に歩いていた。




