画家のギャラリー12
「結局、絵は人の心を映し出しているって言われても、文章よりも不可解ね。あれほど熱望して過去の作品を見ても、弟の頭の中は覗けなかった」
「どうでしょう、人の心はそう簡単ではないので、そうなれば過去の実績から脳みそが勝手に判断してそのまま明日を引き寄せてるんでしょう」
「祐司もそうなのかしら?」
「彼奴ほど闇のように心の奥の見えない人間はいない」
「その深みに嵌まったのが掛川さんなのかしら?」
「思い詰めて絵を描く人は、他人に染まらず自我が強い。でもそんな人ほど行き詰まると脆いもんですよ」
「アラ、そうかしら」
沙苗さんは酒が強いのか、小さな猪口のようなコップに銘柄を変えて呑んでいた。神無月を前にした風の所為か、柳よりもしっかりと歩いている。赤く照らされた比叡山の裾には風任せの柳より、しっかりと風に向かって秋桜は自己主張している。意味深長な曼珠沙華より、更に深い意味を込めて果敢に秋空に立ち向かっている。根元から真っ直ぐ伸びた茎の先に咲いた花だけに、どちらも重さに堪えて可憐さはない。むしろ夏バテの人間に向かってあざ笑うように咲いていた。
頭上に三条大橋が見えた。
「どこまで歩きます?」
「そうねー」
と答えを出さない。此処を過ぎれば御池通、次は丸太町通だ。河川敷はずっと続いているが、普通、デートスポットの鴨川の河川敷は此処までだ。
「あれは喋り下手な祐司が、一泡吹かしたクーデターだったのかしら」
「そんな大それたことをしでかす男じゃないが、世間の常識を無視する処があるから、本人の意図と掛け離れても気が付かないだけですよ」
「それは大いにある。もうあなたに任すしかないのね」
なかなか心強い恋の片道切符を渡された。残りの復路の切符は、手段を選ばずに石塚から恋のためならもぎ取ればいいんだ。




