画家のギャラリー11
「どうですか、また来られる機会があれば、是非あなたの弟さんを一緒に連れて来て欲しい」
「それはどうかなあ」
沙苗さん同様に、越村も石塚の心理は掴みにくい。
「無理なんですよ、石塚はそう簡単には動かない」
彼奴にそんな理念なんてあっても、今は完全に頭と身体は分離している。今それを一体化しようと試みている段階だ。
「此処に顔を出しても何も近本さんには語りませんよ」
気分屋の石塚は、旨い酒だけでは足は向かない。
「そうか」
近本さんは諦めた。石塚に関しては、あの入り口の絵を買うに当たって、篠さんから掛川の作品動機をかなり聞いたとみて、そう落胆はしていない。
記念館を出て賑わう中書島駅で帰りの特急を待った。初期の絵とかやぶきの里を描いた絵の違いに石塚祐司がどう影響したか。絵の違いは分かっても筆運びがどう影響したかは絵でなく、彼の頭の中を覗くしかない。言い換えれば石塚がどんな助言をもしくは貶したかだ。言葉の記録がなければ電車の中でも、沙苗に対して越村は近本さんと似たような質疑応答になった。
弟は稀に見る面倒くさがり屋だ。子供の頃はそうでもない。沙苗さんの話では学校から帰ると鞄をほったらかして遊びに出た。あの頃の弟には、もう少し思慮深さが欲しくてもそれは小学生には無理だ。結局は成るようにしか成らずに放任主義になった。沙苗さんがあの頃を想うと何が間違っていたか、両親共々今回のことでは頭を悩ました。
鮮やかな赤と黄色の特急はいつ見ても良いが、下りる予定の丸太町駅は通過する。乗り換えるのが面倒で四条で下りた。地上に出ると陽は西に傾き昼間の暑さも和らいでる。このまま木屋町を抜けて河原町に行くかと思えば、駅の連絡口を出て、そのまま鴨川の河川敷を北に向かって歩いた。ちょうど北東に比叡山が鬼門避けにどっしりと鎮座している。
「鴨川からあの山を見ると落ち着くわね」
そよ風に揺れる柳越しに、沙苗さんは西陽を浴びて、赤く染まりだした比叡山に視線を移した。




