画家のギャラリー8
「石塚さんは、かやぶきの里で掛川さんと最初の出会いで話が捗り、更に二人の共通点でも意気投合して、気が合った相手が絵描きなら芸術論を交わせば盛り上がったでしょう」
沙苗さんにすればその推論が聞き捨てならない。
「そういう見方もあるが、この場合おそらくお互いの主張が平衡を取り持つように話をする。食い違うのなら普通は切り上げて話題を変える。変えたところで話に着いていけなければ続かない。だが共に語り始めた二人も、その話をどちらかが一方的に終えるには罪悪感が付き纏う。そこで徹底的に議論した」
沙苗さんに代わって越村が論じた。
「それじゃあ一体芸術の何を話したんですか。私が思うに、そこから導き出されたのがあの入り口の絵だと想う」
近本さんが云いたいのは、入り口に飾られた絵とこの絵の相違点が、二人が最初に交わした芸術論の烈しい論点で、そこから導き出されたのが入り口の絵なのか。
「それを言葉で解釈できるのは石塚さんでしょう」
「今の近本さんの話、ちゃんと真剣に聞いたやろね」
沙苗さんがそこで越村に、弟の人柄を理解しろと催促している。
いきなり石塚に何を言ったのかと問い詰めても、なあなあで逃げられるが、こうしてふたつの絵を脳裏に見納めた上で、此の違いについて逸らさせずに囲い込むように話せば、石塚とこれで真面に聞き出せる自信が付いた。沙苗さんも近本さんの説明で弟の成長を大いに期待した。
「電車で話した最初のことやけど……」
沙苗さんはボソッと越村に耳打ちした。
「何ですか、急に」
「姉弟としての付き合いの長さと。男同士の話は別やと言ったやろ。そやからあたしでは無理で、越村さんから訊いて。こっちの絵からあっちの絵に変化は見て解ってもハッキリした理由をしっかり弟から聞きだして欲しいの」
沙苗さんの切なる願いを実行すれば、益々彼女との関係は盛り上がる。まだ定まらぬ恋の駆け引きに神経をすり減らすより、石塚を問い詰めるのは、恋とは別の神経を使えば良いだけに楽だ。この絵の変化を読み解くことが恋の近道に繋がるとあらば、俄然と彼は石塚の芸術論に大いに論争して付き合えばいいんだ。




