画家のギャラリー7
近本は入賞作品の前で立ち尽くす沙苗さんに寄り添った。
「私も入り口にあるかやぶきの里を題材にした絵と、この絵を見比べて暫く絶句しました」
近本氏は素質ある若者を発掘して、伸び育てるのに資金の許す範囲で援助を惜しまない。今までは音楽家、特に素人の中から優れた演奏をする人の発掘に力を入れていた。絵では最初に絵画部門で目を付けたのが掛川さんの此の絵です。
北村篠さんが美大生の頃に、うちの酒造会社にバイトで来られて、その関係で掛川を知った。
「私は毎年二科展の作品を見に行きました。専門家や同じ美大生の学生にも目に留まり、その中でも一際の邪念を振り払って残った絵に興味を注がれた。その中でも私の感性を刺激させたのが此の作品です。それから彼が新しい絵を描き上げる度に、応援を兼ねて買った。ここ暫く途絶えていたが茅葺きの里を題材に描き上げたその中の一点が入り口の作品です」
「あの絵は何で買われたんですか?」
筆づかいは掛川さんそのものだが、仕上がった全体象は今までとは掛け離れている。そこを追及すると最初は戸惑いもあるが篠さんの説明を聞くうちに、こういう絵もひとつあっても好いと思って新しい期待も加わり買った。
「此の画風の変化から何が変わったと思います」
越村は思い切って更に長年追った画家の変化について訊ねた。これには沙苗さんも隣で真剣に耳をそばだてた。
「確かにこんな急激に変わるのは珍しい。よほど本人が迫ろうとしても切っ掛けもなければ無理だ。その切っ掛けがあの隠し里の風景に魅了されておそらく始まった。これはあくまでも私の推測ですが。石塚さんは掛川さんと同じようにあの里の風景をそのまま心の中に取り込もうとして、自我に目覚めて新たな葛藤が始まった。掛川さんはそれを絵に取り込むのに成功したが石塚さんは失敗した」
失敗した! これは聞き捨て成らないと追及した。




