画家のギャラリー6
近本さんは直ぐに掛川の絵が展示してある三階に案内した。三階は三十畳のフロアーがふたつあった。左は生け花の展示で右のフロアーに絵が掛けてある。
「此処に彼から買い取った作品が十五点あります。彼の全作品は彼の押し入れに眠っているのも入れると百は超えるでしょう」
「そんなに描いてるんですか、かやぶきの里では五点ぐらいでしょう」
沙苗さんが真っ先に聞いた。
「あの隠れ里らしからぬ作品はこれです」
北村ギャラリーで観た八号の絵と構図は似ていた。
「これを最初にご覧になってどう思われました」
沙苗さんは本当はその隣の作品から伺いたかった。
「入り口に最近の作品を置くのは私の癖でして」
と察して前置きした。
「この作品は華やかすぎて驚きました、隣は入選前の作品です」
近本は隣の絵と直ぐに比較させた。二人は初めて八号以上の彼の作品を目にして細部を見比べられた。一本一本の線が正確に細かく素朴な色調の中に、ひとつの風景が描き込まれている。かやぶきの里ではその線が所々覆い尽くす花でぼやかされていた。
「この違い、何なのかと篠さんに伺いました」
「それはどうも、隠れ里でご一緒だった方の影響だと私も訊いて、またそのお姉さんが見に来られると知って是非観て印象を聞けばと思いました」
「まだこれだけではなんとも言えないし、その人の入選作品を観たいのですが」
ここでは沙苗さんが終始率先して訊いていた。
それもそうですね。早合点しすぎると近本さんはじっくりと作品を案内し始めた。入賞作品は終わりの方に展示してあった。今までより一回り大きい十号に風景をそのまま描写して、背景には様々な雲が空の三分の一に描き込まれている。此処では近景の題材は初期のものより、更に気が遠くなるような線まで細かく丁寧に描き込まれていた。空の雲も造形美術さながらに、実に細かい濃淡の筆のタッチで描かれていた。今の掛川さんの絵を知るだけにイメージからのギャップに驚かされた。本人を知らない沙苗さんは、おそらく入り口の絵との違いに驚いている。




