画家のギャラリー4
篠さんから弟に影響を受けたと聞かされても、二科展の写真集は印刷技術は高いが載ってる写真が小さくて眼前の絵と比べて、細かい筆のタッチまで比べられない。賑やかな画風以外は見分けるのは難しい。
「この人の二科展に入賞した頃の作品はどこにあるんです」
越村が訊ねた。
「近本さんって云う方が掛川の二科展の作品を含めて十数点買い取られました」
近本さんは伏見に有る酒造会社の社長で、今は会社を息子さんに譲っている。
「じゃあ、この人の絵は、お眼鏡に適ったその近本さん宅にあるんですの ?」
同宿した掛川の絵を見て、沙苗さんには石塚の謎がひとつ増えて、普段は覗くことの出来ない弟の内面に迫りたいのだ。
「ええ、二十点もないけど、その中に二科展の作品も一点あるの。なんせやっと入選した作品でも気に入って買ってくれるのなら、それで良いと手放したの。見に行くのなら連絡しとくわよ」
中書島駅からギャラリー会場までの地図を書いてもらい、近くの京阪五条駅から伏見に向かった。普通列車しか泊まらないこの駅は極めて簡素で、鴨川と並行して流れる疎水の下を走っている。五条から次の七条で停車する特急に乗り換える。
弟は芸術には疎いと決めつけていた沙苗さんだけに腑に落ちないのだ。
七条駅で乗り換えると直ぐ地上に出て、車窓の展望が開けたが、眩しさとは裏腹に密集した古い家の軒下を掠めるように特急電車は行き過ぎていく。
「越村さん、今回の件で、父は貴方を気にしだしたのよ」
オッ、と彼の頬が明るんだ処ですかさず釘を刺した。
「あたしより弟のためなのよ」
湖東三山で越村の荒削りであるが、父に似たセンスを披露した。その一方で弟の新しい一面を篠さんに指摘された。それを良く理解しているのは越村だと直感した。それを確信するために、弟の影響を受ける前の掛川の作品をじっくりこの目で確かめたいのだ。




