画家のギャラリー3
「石塚さんはお酒を呑まないと余り喋らない人なのね」
これには沙苗さんはそんなことはないと否定したが、それで掛川の風景画の中にやたらと花のある草木を添えるようになったと篠さんは強調した。
「そやけど、悲観することはない。掛川の話だと石塚さんはいつもしっかりした口調で芸術論を打っ付けていた。絵も描いたことない男に俺の間違いを指摘されたと嘆いてたそうですよ」
これには沙苗さんと二人顔を見合わし、問い詰めないとおそらく石塚は何も云わない奴なのに。
「木偶の坊でもなさそうね」
「あたりまえでしょう !」
篠にひと言多いと沙苗さんは強い口調に似合わず顔はにやけた。どうやら石塚はあの画家から何を掴んだのか。
「篠さん、それよりかやぶきの里で描いた絵は売れてないの」
「前にもゆうたが昔の画風を知ってる人が少し買ってくれたが、此処まであの里が花盛りになると国内では知ってる人も多いし、買う人おらんかも知れん」
掛川さんの絵はどうも隠れ里とは掛け離れている。それでも次の絵が出来るまでこうして展示しても誰が観に来るんだろう。
「このギャラリーは流行っているんですか」
繁華街に近く、それでいて人通りが少ないく、落ち着いて観賞できる立地条件に恵まれている。掛川の絵がはかどらない時は、偶に写真とか陶芸品を展示することもあり貸しギャラリーとしての存在価値は十分にある。此処で篠さんから掛川も載ってる二科展の入賞作品集を見せてもらい、目の前の作品と見比べた。素朴な山野の雪景色に残雪を突いて顔出す蕗の薹に、青く澄んだ空の色が近付く春を連想さす作品だ。それに引き換え「かやぶきの里シリーズは」夏に描いたのに隠れ里らしからぬ春真っ盛りの写真だ。
「これほど謳歌する盛りの花は描いたことがないんです」
今まで季節に変化を取り入れる作風もそんなに目立たなかっただけに、かやぶきの里シリーズは二科展の作品から飛躍しすぎた。
あの茅葺きだけの描写なら、あの人らしいのに周囲の人が見る目は違った。それでも最初の一点しか観てない石塚の影響だと篠さんは言い放った。石塚の述べた芸術論に対して、掛川が更に彼の心の中に踏み込んだ結果が、かやぶきの里シリーズの絵だった。




