画家のギャラリー2
「篠さん、掛川さんは留守ですか」
越村は気落ちして訊ねた。
「ええ」
せっかく来たのにと篠は気の毒がった。
「じゃあ、どっか別の場所に行って描いているのか」
沙苗さんに期待させて越村は申し訳なさそうだ。
「今頃は奈良の飛鳥辺りでイーゼルを立てて描いてます」
どうしたものかと篠は気を揉んでる。
「いつから」
「昨日から」
「いつ帰ってくるの」
「分からないの。納得する絵が出来るまでかしら」
「まあ、大変」
沙苗さんが突然割り込んできた。
「それで、祐司もあそこにずっと居たのかしら」
「でも弟さんはあそこでは何もしてなかったけど……」
「あれで頭はデリケートで、それが却って災いしてなにも動かないのよッ」
仮にそうでも他人に言われると沙苗さんはカリっと来た。
越村が沙苗さんの気分転換に、越村が芦生の原生林の森を一緒に歩いた話にをすると、篠さんは飛び上がらんばかりに驚いた。
「そんなの有り得ない。営林署の人があれだけ誘っても見向きもしなかったのに」
「それが越村さんが紹介した澤村さんのお陰なの」
まあ、そうなのと篠さんは腹を抱えて笑いだした。
「あなたの弟さんって随分と淋しがりやさんなのね」
そうかしらっ、と沙苗さんは不満げなのを、越村は待望の絵を見てどうですかと急いで話題を変えさせた。
「一度あの茅葺きの里の中をあたしは車で走ったのよ」
エッ! あそこ一般車両は通れないのに、と篠さんの言葉を尻目に「あんな桃源郷みたいな沢山の花はなく、これらの絵は拡張されてる」と沙苗さんは絵に八つ当たりした。
絵は写真と違ってありのままを写すものでなく、心の真実を描き出すもの。それが共鳴できる人だけが買い求める。あの絵の中には石塚さんの弟さんの影響も受けていると篠さんは言い出した。でも石塚は最初の一点だけ観てあとは観ようとしなかった。




