早苗さんの想い9
二人はバスに乗って河原町松原で下りた。バスの中で石塚がかやぶきの里で一緒だった画家の話をした。これに興味を示した沙苗さんが、その画材店と併用している画廊を希望した。画廊の在る店は河原町松原のバス停を少し下がった所にある。
「弟が居る旅館に一緒だった画家の人って、どんな人?」
「今そこに居るかどうか判らないが、画家がかやぶきの里で描いた絵はまだあるはずだ」
沙苗さんに云わすとその方が却って変な先入観念がなく、真面にその絵が見られるそうだ。
「その人が弟と一番長くあの旅館に逗留していた人なの」
本人の話だとそうだ。そして丁度いい入れ替わるタイミングで澤村さんをかやぶきの里に誘った。
「越村さんの企画が当たったのかしら?」
「さあ、それは判らないが上手くいってるようだ」
どんな絵を描く人なのかしらと、沙苗さんはわくわくしだした。あのワクワク感は石塚に対してか、それとも絵に対してなのか。あそこでかなりの絵を描いているにも関わらず最初の一点しか目を通してない処から、少なくとも石塚は画家の絵には興味がなかった。それから察すると沙苗さんも、絵でなくその絵から湧く画家に興味があるのか?
「あたしは弟が長く逗留した原因の一端に巡り合えばと思ってるの、期待外れかしら」
「それはなんとも言えない。絵画ほど観る人の視点が、様々に変化するものはないでしょう」
「でもいい物は好いんでしょう」
厳密に云うならば美的センスより、その人の生き方が色濃く反映された絵ほど値打ちが増すのだろう。それでも美しい物は美しいと感じる感性が際立った絵ほど人の心を捉えるのは確かだ。




