早苗さんの想い8
「読んだことあるの?」
「中学の時にお袋が愛読して読んだが、疲れてじっくり読んでない」
「ひょっとして、越村さんは信州の安曇野の名前に引かれたんでしょう」
「まあね、題材の安曇野なんだけど、東京に出てパン屋を営む。そこに集まる芸術家サークルの溜まり場を描いて、登山には全然関係なかったんだ。でも人間模様が凄かった」
それで熱が余り入らなかったのかと沙苗さんは納得した。冷やかし程度に古本の露店を見て回りバス停に戻った。
古本屋では色々な本に関心を寄せたが手に取って見ることもなかった。読書家ではないのかと気を揉んでしまう。沙苗さんは車の運転以外に一体何に興味があるんだろう。バスを待つ沙苗さんの横顔をそっと覗いてみた。何か顔に付いとると言われて慌ててバスの来る方角をみた。
「次は何処に行きたいん」
「四条河原町にでも出てみようか」
時間が余って沙苗さんも特に行き先を決めてないんだ。
「弟の行った弘法さんもこんな感じなの?」
「此処は境内の参道だけだけど向こうは違う。境内所狭しと縦横無尽に露店が並んで、それこそ一日見て回っても飽きない」
「そうか、それじゃあ祐司も十分に楽しんだ訳か」
なんだか険のある言い方だなあ。天神さんの縁日では物足りなかったのか。
「面白くなかったですか」
「ウウン。良かった。あんな人混みの中を歩けたんですもの」
「祇園祭は行ったことはないんですか。あそこは此処より凄くて、大きな通りは歩行者天国で、鉾のある路地という路地には人が溢れてますよ」
「知ってるわよ。大学の友達と行ったから」
あそこは女子校だ。と言うことは女友達ばかりで行ったのか。それで面白くなかったのだ。
「ガードしてくれる男がいなくて、わざとらしく嫌な男どもに押されて散々だったのよ」
やはりそうか。良く聞くとやはり女ばかり四人で行って、それに懲りて行ってない。余程嫌な思いをさせられたんだ。




