早苗さんの想い7
この人混みの熱狂に浮かれて疲れて見えただけかも知れない。お参りが済めばこのまま帰ろうかそれともあの笑顔をもう一度確かめようか。思案しているうちに、どんな骨董品があるのか見たいと言い出した。天神さんの東門を出て御前通に出た。そこは参道より人通りは少なくても、込んでいるのに変わりはないがこの通りは食べ物屋はなく、物見遊山の人より目的の有る人が多い。
「骨董品というよりガラクタ市ね」
彼女にはそう見えたが、ここに来る人にはお宝に見えるのかも知れない。それが証拠に五十代のジーンズにポロシャツ姿の男が、しきりに目の前の骨董品を眺め回していた。
「あんなん買ってどうするのかしら」
小耳にそっと話しかけられた。
「書斎に飾っとく物じゃないなあ」
「あの人、書斎のあるようには見えないけど」
どう見てもインテリではなさそうだ。お互い顔を見回して頷いた。広げたビニールシートの端に分厚い本が一冊、目についた。良く見ると聖書だ。これは骨董品じゃないと沙苗さんは憤慨した。仕舞いにはこの罰当たりもんがと店主を睨んで行き過ぎた。そんな調子で表の一の鳥居まで来てしまった。そこから今出川通を渡った御前通には古本屋の露店が並ぶ。
「あの聖書はやっぱり古本屋で扱ってもらった方がいいだろう」
「どっちも良くないわよ。第一骨董屋に売り飛ばすなんて」
「だけどそうとも言えん。遺産相続した家を整理するのに任された古本屋とたまたま居合わせた骨董屋が聖書を先に見付けて、持ち帰ったものかもしれん」
「へ〜え、聖書一冊でそうやって見て回るのも面白いわね」
それでも沙苗さんは物が物だけに、納得できない顔をされた。
どこの露店でもそうだが、いい本は真ん中で座ってる店主の辺りに置いてある。そこに臼井吉見の安曇野を見付けた。全五冊を一つに括ってある。普通は五千円前後だが九千円の値が付いてる。よっぽど売りたくないんだ。
「ほ〜お、珍しいなあ。これは凄い本やで〜」
と言われても沙苗さんにはピンとこない。




