沙苗さんの想い6
そんな恐ろしいこと考えないでと笑われた。恐ろしいですかと訊けば。スピードになれた頃の初心者が一番怖い。運転技術とスピード感が掛け離れているのだ。登山も同じでこれから弟は澤村さんの手引きで山に登る。その時は足が震えて慎重に次の足場を固めるが慣れるともう少し先の岩に手を伸ばして滑落する人がたまにいる。それと同じなんだと沙苗さんは肝に銘じている。
山道のカーブはブレーキで調節する。慣れるとギヤの上げ下だが、タイミングが早いと内側に回り遅いと外側に流れる。そう言えばまだそんなカーブが連続する山道は走ってない。湖東の開けた長閑な田園風景の中を走った。そんなカーレーサー並みの運転テクニックより、今日の人混みから伝わった手の温もりを大事にしたい。
石畳が尽きて両側の屋台も此処までだ。石段を上がると本殿の入り口の門に辿り着いた。此処で人の波も穏やで、どちらからか気付かないまま手を離した。これで少しはゆっくりと歩ける。
二人は社殿に参拝した。
「ねぇ、御室八十八カ所って、これの縮小版でしょう」
まあそれには違いないがそれでも神は鎮座している。
「向こうは八十八回もこうしてお詣りしたの、大変ねー」
神事は元々そんなものだ。そこに意味があればじゃあ次からこうすればと直してしまえばまったく今とは違う仕来りなる。何故そうするか意味を問わないから古来の神代の仕来りが今日まで残った。愛も形だけそうすれば実に味気ない。でも恋に意味はない。湧き上がる感情は理屈じゃないんだ。
「沙苗さんは学校の礼拝堂で週末はお祈りするんですね」
「云われてみればそうだわ」
「礼拝堂の神さんは嫉妬しませんか」
嫉妬! もう神と恋を一緒にしないで、とちょっとはにかんだ処が可愛く見えた。




