沙苗さんの想い4
早めに家を出たが、既に太陽はかなり昇って、窓越しに陽射しを浴びて、沙苗さんはバスが止まると起ち上がり、出口に向かう列に並んだ。乗った頃は空いたバスも、天神さんに着く頃には吊革を持っていた人までいた。既に車窓には屋台が所狭しと立ち並び、露店を埋め尽くす人の流れに沙苗さんは驚いた。バスを降りると吹き込む暑さにハンカチを団扇代わりに扇ぎだした。
「この人達が全部お詣りするの ?」
「まさか、物見遊山ですよ」
随分と暇を持て余している人が多いこと。と自分はその中に入ってない顔をしている。
まだ日が浅い所為かこれでも空いてる。それを訊いた沙苗さんはエッ! まだ混むのと眉間に眉を寄せた。門前のすし詰めが更に石畳の参道へと続いても境内は疎らだ。彼女は覚悟を決めて歩き出すと、さあ行きますよと彼女の手を引いて、石畳の参道が続く一の大鳥居を潜った。
参道の両脇に並ぶのは食べ物の屋台ばかりだ。金魚すくいのプールのある所だけが連なった屋台にぽっかりと空間を作っていた。
「骨董品の露店なんてどこにもないわね。なんで」
「その手の店は他の通りにありますよ。帰りに寄りましょう。とにかく本殿へ行きましょう」
さっきからしっかりと手を引いて歩く。これが石塚の言っていたわくわく感か、悪くない。
「弘法さんの縁日もこんな感じの人混みなの」
「これほど込んでるのはこの参道ぐらいで、向こうはもっと迷路のように露店が並んで、それこそどこに向かって歩いているのか解らなくなる。まあ二人には気分転換しながら物見遊山ができていい」
「そうなの。弟は張り巡らされた露天に囲まれた迷路のような境内を歩いていただけなの」
言葉にすればそうだが、日が浅い二人ならそれで十分だ。こっちもこの人混みのお陰で、ずっと手を握れて、肩も寄せ合えて石塚のあのにやけた顔も納得出来た。




