沙苗さんの想い3
「要するに坊さんと役人の気質の違いが、あの境内に乗り移って、人々はそれぞれの縁日を楽しんでいる」
「でも祐司はそんなことはひと言も云ってないわよ」
そりゃそうだ。彼奴の頭は澤村さんだけで、真言密教なんて何処にも存在しない。
「石塚は澤村さんしか眼中にないんだから。弘法市であろうと単なる祭りの夜店であろうと言えるわけないよ」
それもそうねとアッサリと引っ込めたかと思うと、
「山に関心のない祐司がどうして信州の高山に登る人に惹かれたのかしら?」
「石塚は恋に浮かれると後先を考えてない男ですよ。だからネパールから先を訊かれて困った揚げ句、ビールを煽らないと俺には答えられなかった」
「あら、そうなの、じゃあ澤村さんには何て答えたのかしら? それは訊いてないの?」
ネパールは遠い。まだ日本に居るんだからその延長上の過程を想像するより、次の休日をどう楽しく過ごすか。それを今は大事にしたいと言う事らしい。
「随分気取った言い分ね、それで納得したのかしら、お相手は」
「そこが母性本能が活発な彼女の好いところですよ」
ミッション系の大学では、愛は慈しむように心掛けている。沙苗さんも週末には礼拝堂で祈りを捧げている。そこを追及すると彼女は、行く大学を間違えたと言われてしまった。
「どう違うんですか」
そうねー、彼女は窓辺からバスの背もたれに身を沈めて、俯き掛けた瞳が急に越村を捉えた。
「澤村さんって、家庭の都合で経済学部を選択したけど、余り身に付いてないんじゃないかしら」
別に人生は動き始めた汽車に飛び乗ったからと云って、終点まで乗る必要はない。気に入った人でも景色でもあれば下りればいい。
それが世間から見捨てられた隠れ里でもいいのかと言われた。彼女の弟をやっとかやぶきの里から連れ出した身としては矛盾を感じる。
「でも親のすねかじりでないのなら、それも一考でしょう」
この人から本筋の愛を引き出そうとすればどうすればいいのか。心地よいバスの揺れがそんな思考を妨げる。




