沙苗さんの想い1
大学近くのアパートに住む越村と沙苗さんの家とは数キロしかない。車なら問題ないが歩くと少し距離がある。電話ではどっちの住まいで待ち合わせるか攻防の結果、沙苗さんに近い天王町のバス停になった。日曜の朝、五分前にバス停に着いた。沙苗さんはノースリーブで淡いグリーン地に、小花を散らしたワンピース姿で二分遅れてやって来たが、それでも約束の時間より三分早い。ウェストは黒いベルトでキリリと引き締まってる。肩に掛かった鴇色のショルダーバッグまでが、今までのジーンズで車を運転する姿から一線を画して見とれた。屈めて路線図を見て、初めて北野の天神さんに行く直通バスがなくエッ! と彼女は思案した。一キロ先の東大路通で乗り換えるのか、如何する。どちらともなく歩こう、で決まった。二人は彼岸過ぎの陽射しの中で丸太町通を歩き出した。秋分の日の休みは、澤村さんがバイトで石塚は会えずにぼやいていた。
「そんなにベタ惚れなんですか」
う〜んと一声唸って免疫がないのよと沙苗さんは嗤った。沙苗さんは何処か寂しげだ。あなたみたいに少しは生活力があればねぇ、とちょっとひょうきんに小首を傾げた。
「境遇が似ているなあ」
「誰に」
石塚の家ではお兄さんが既に仕事を任され、石塚が大学を出ても自立しなければ従業員の仕事しか残ってない。澤村さんのお父さんも次男で田畑がなく大阪へ出たと聞いた。
「言われてみればそうね。祐司はどこまで自覚しているのだろう」
「今はそれどころではないようだ」
ネパールまで行けても、このままではいずれヒマラヤで行きで尽きる話に、沙苗さんは本当に祐司が穂高に登れるのか不安視した。




