石塚の思い9
「それじゃあ、本物の猫でも飼ったらどうだ」
「動物愛護精神はあるが、そういう動物をペットとしてそばに置く風習は身に付けていない。もっぱら山野を一緒に戯れて、自然に帰すように彼女は心掛けている」
山では雷鳥を見付けてもそう感動しなかったが、あれは気持ちが自然界に取り憑かれるのを嫌ったのか。
「中途半端に可愛がりたくないのだろう。そんな所はお前に似て面倒くさいんだ」
今日のチキンカツを一気に駆け込む石塚を見て、そう言えば雷鳥も首を長くして赤いトサカを付ければ彼奴の腹に収まる鶏になるか。それを小屋へ追い立てる石塚を連想させた。
「いつかはヒマラヤに登頂するのが澤村さんの夢だが、お前が惚れれば支援してやるのか、それとも断念さすのかどっちなんだ」
「それは愛の深さに因る」
「どっちの」
「二人に決まってるだろう」
とどやされた。
「おい! まさかお前、ヒマラヤに登る気じゃないだろうなあ。あそこにエスカレーターもゴンドラもないぞ」
「二人してネパールに行くのも悪くないと思ったんだ」
そんな話をすればネパールも好いわねと言ってくれた。そっから先が愛の分岐点になるのかしらって言われてしまった。どうすればいい。先ず俺と一緒に穂高に登れ、そうすれば自ずと先がみえる。石塚は何を思ったか、付いて来いと学食を出て、校門を抜けるとおもて通りを歩いて牛丼店に入った。
「おい、まだ喰うのか」
黙ってそのまま券売機で牛皿とビールを二人分買った。カウンターに着くなり出されたビールを付き合えと呑みだした。
「どうした」
「これを呑まないとそんなもんに答えが出るわけないだろう」
とビールを煽った。二人の牛皿が空いた頃に、
「俺に穂高かが登れるか?」
随分と手間の掛かる男だ。
「難しいコースを避ければ子供でも登れんことはない」
そうかと言ったきり彼奴はビールを飲み干した。




