石塚の思い8
越村のデートは車でのドライブだけにそうも行かない。車を降りても、季節外れのお寺なら寄り添うだけの人混みもなかった。この違いに戸惑いながら、雑草を踏み締めてやっと真面な道に出た。学食の建物は目の前だ。スニーカーでないだけに、靴の汚れが気になる。なんせ授業の合間の掛け持ちバイトでは靴を選んでられない。
今日は日替わりメニューをテーブル席に並べて議論しはじめた。こんな時は好みを注文しても胃にスッポリ収まるより、選んだ言葉を腹に入れたい。それが値の張らない日替わりメニューのいいところだ。
「なんの用途も判らない品物が溢れて、聞いてみたいが買う気になれば、ちょっとした勇気も必要だが時間が勿体ない。なんせ次から次に露店が並ぶ光景に目が奪われてしまうとそうはいかないのだ」
「澤村さんもそうなのか」
「彼女は違う。彼女は何処でも好奇心は旺盛だ」
そりゃあそうだ。だからお前を紹介したんだ。間違ってもそこを取り違えるな、これは忠告でなく警告だ。その頃には沙苗さんの気持ちを掴んでおかないと彼女はどう転ぶが判らない。なんせ愛ほど不確かな繋がりはない。ともに死が訪れるまでと、何でも何処かの貴い人がそんな寝言を云ったそうだ。それでは一生マインドコントロールされているようなものだ。
「アンテークな猫足椅子を見付けて、これ欲しいと言い出されて持って帰れないから困ったもんだ」
「ほう、それでどうした」
「彼女が座ると店の親父が買わないのならよそに行ってくれと、体よく追い払われた。でも彼女の無邪気な姿には心が癒やされる。必要最低限のものしかない山小屋はどうなんだ」
「山小屋でなくホテルだ。ただしバスは無し、トイレは別で、相部屋でも一応はホテルだ。それなりの対応は俺も澤村さんもしてきた。その反動で無邪気に商品を扱ったのかも知れん」
彼女の奥底に流れているのは、能勢の田舎に良く遊びに行って培われた都会にないセンスだ。そこから来る行動を求めたとしても、俺には解らんものが石塚に解るはずもない。




