石塚の思い7
先を急がないが気になる。二十二日、東寺の弘法市の翌日。大学の講義室に石塚は生真面目にノートを取っている。彼奴らしくない珍しい光景に思わず気が引ける。講師の話などどこ吹く風とばかりに瞑想を印象づける彼独特のカモフラージュに誤魔化され続けた者には、昨日の結果が気になり、こっちはいつもと逆に講義が頭に入らない。午前中最後の授業も手伝って、朝食を抜かした者には堪える。それに堪えうる気力の源泉は、澤村さんから昨日、得られたと確信して教室を後にする石塚に聞くためだ。三度目の呼びかけで彼は振り向いた。
「どうした。真面目に授業を受けて」
これが学生の本分だと言いたげに、キリリとした顔を見せた。二人はそのまま自然と学食に足が向いた。
校舎を出て廊下伝いでなく、雑草が蔓延る中庭の踏み荒らされた小径を通り、学食の建物に向かった。
「こんな道を歩くなんて、足取りまで変わったなあ」
大したことはないと言いたげに歩いている。夏休み前なら真面に受け取れない態度だ。
「昨日はどうだった」
凄い人で歩くだけでも往生する。一人ではそうかもしれないが、澤村さんと一緒ならそうでもあるまい。もう十分すぎるほど密着できたはずで、少し慎めと言いたい。
「あれだけ広い境内に所狭しと露店が並ぶんだからなあ。それどころか周囲の道まで溢れて毎日やれば儲かるだろうなあ」
縁日をなんと思ってる。そもそも空海どころか真言密教さえ知らない者が。
「それで何か気に入った物は見つかったか」
どうせ物見遊山で行ってるご身分に、探す気など在るはずがない。それでも珍しい骨董品には飽きなかったそうだ。
「彼女と二人でこれってなにに使う物なの? って想像を巡らすだけでも楽しいもんだ」




